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19世紀イギリスについて、創作活動するために調べたこと。

19世紀イギリスの貧困認識

この書籍を要約
安保則夫「明石ライブラリー81 イギリス労働者の貧困と救済ーー救貧法と工場法」2005年10月20日初版

パンフレットが変えた19世紀イギリスの貧困認識
「ロンドンの見捨てられた人々の悲痛な叫びーー零落貧民の状態に関する調査」The Biter Cry Outcast London:An Incqiry into the Condition of Abject Poor
全文20ページのパンフレット。(以下、パンフレット。)
1883年10月にロンドン組合教会同盟London Congregational Unionがパンフレットを出版した。執筆にあたりイーストロンドン礼拝所East London Tabernacleの伝道師と牧師(ロンドンシティ・ミッションの活動家たち)が行った実地調査を元に作成された。
パンフレットの末尾には連絡先としてファリントンストリートのメモリアルホールにあるロンドン組合教会同盟のマーンズ牧師Rev.Andrew Meansの名前を表記。しかし著者自体は匿名。
パンフレット販売に拠る利益はロンドン組合教会同盟の事業のために充てられた。

このパンフレットの冒頭で、いままでのキリスト教会の貧民救済活動は限定的であったり不十分であったと認識を明らかにしている。また、ロンドンについて、上辺では体裁の良い都市を取り繕っているが中心部では道徳的退廃、神を全く信じない人々が溢れており、(教会が人々の)行いを正すような事業は何も行われていないと報告している。

パンフレットの価格は1ペニーであった。廉価であったことと、新聞が積極的に取り上げたことで一大センセーションを引き起こした。宗教関係者、社会運動家、政治家など知識階級が興味を持った。
ウォールAnthony S. Wohlによればパンフレットの出版を境に急激にイングランドじゅうがスラムの現実に関する認識を持ったそうだ。

パンフレットの項目:
前文、礼拝の欠如、彼らの生活状態、不道徳、貧困、何をなすべきかについての提案、地区の状況

前文
「長いあいだの、忍耐強い、まじめな調査の結果」(263ページ)、教会がしているつもりになって大したことをしていなかったことに気づき、宗派を超えてキリスト教会として対策に乗り出すべきであると書かれている。

礼拝の欠如
労働者階級が礼拝に通う習慣が欠落していることを具体的数値で報告している。比較的敬虔な信徒と思われていたオールドフォードですら低い数値を叩き出した。
オールドフォードOld Ford周辺:
「いかなる礼拝も参加しない」147件の長屋住宅に住む118/212家族
ボウコモンBow Common:
「礼拝に参加したことがある」135人/2290人(内訳:大人88人、子供47人)
レスタースクエアLeicester Squareのある通り:
「礼拝に参加したことがある」12家族/246家族
セントジョージズイン・ジ・イーストSt,Georges in-the-Eastのある地区:
「礼拝に通っている」39人/4235人

彼らの生活状態
部屋の平均的な大きさは8フィート平方(1フィートは約30.5センチ)。
腐朽して汚臭のする貸家のどの部屋にも、家族がしばしば2家族住んでいた。※1
報告されている住民のようす
・8回目のお産を終えたばかりの妻
・天然痘にかかって床に付している夫
・半裸の汚い身なりで走り回っている子たち
・地下の一室に父母と3人の子供と4匹の豚を飼っている家庭
・地下の台所で住んでいる7人家族。同じ部屋に死んだ赤子が横たえられている。
・別の部屋では寡婦1人。子供3人。死んでから13日たった子供。夫は馬車を引いていたが自殺した。
・別の部屋では寡婦1人。子供6人。うちふたりは成人(27歳の息子、21歳の娘)。
・別の部屋では親のない姉弟9人。長子は29歳。
・別の部屋では母子。母は部屋を夜半過ぎまでラブホテル替わりに人に貸し、子供は家から追い出されているが行き場がなくやがて戻ってくる。
・ベッドがある部屋では汚れたぼろきれ、削り屑、わら。これらをごちゃごちゃに寄せ集めたベッドを利用している。部屋の借主の寡婦はこのベッドだけを使用し、他の部分を他人に又貸ししている。又貸しの金額は2シリング6ペンス。

におい
・うさぎ、ネズミ、犬など動物を引き裂いた(毛皮職人に売る)あとにのこる毛皮の残りが発する悪臭。
・売り物(昨日の残り)の魚、野菜などの腐敗臭
*窓をあけることができたが換気は、空気が入らないので特に意味がなかった。

部屋が借りられない者の生活状態
上記のような住宅に住めるのはまだよいほうで、共同宿泊所に寝泊まりする者もいた。共同宿泊所は盗品故買人によって運営されることが多かった。男女混合の施設あった。宿泊部屋では一部屋に60〜80のベッドが両側に一列に並べられていた。料金は一泊2ペンスであった。

共同施設に泊まれない者の生活状態
階段や踊り場にたむろしている。踊り場に6〜8人が寝ていることも珍しくない。
正直な労働者が凶悪犯と隣り合わせであることが珍しくない状態であった。
パンフレットは、腐ったみかんが隣のみかんを腐らせるような内容を記載している。

犯罪に手を染める者は多かったか?
正当な労働で賃金を得ようとしている者が多かった。
ブログ内リンク 前回要約したところ

パンフレットが露呈させる「こころの痛むような悲惨な光景」
・みじめな部屋。8人の困窮した子供。父親は既に亡くなった。宣教師が尋ねると母親が棺桶に横たわっていた。
・不潔な屋根裏部屋。壊れたイス一脚、ソースパン(つぶれている)、ボロ着。汚い寝床にボロ着で裸足の4歳の女子が座っている。父親は民兵のために不在。母親はほっつきあるっている。4歳の子は赤子の世話をさせられている。自分の空腹は半日ほったらかしである。


※1 8フィート平方 ○○平方は一辺が○○の正方形なので、2.4メートル×2.4メートルの正方形。
畳でいうと4畳より小さい。数字があやまっているのか?と思うほど過剰に詰め込んでいる。
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